長期的に勝利するのは、知能など何らかの才能に恵まれて優位なスタートを切った者ではなく、より多く練習した者である

【ポイント】
・「努力しつづけなさい、そうすれば目標を達成できるよ」と。これは間違っている。正しい訓練を、十分な期間にわたって継続することが向上につながるのだ。それに尽きる。

・「限界的練習」と名づけた方法こそゴールド・スタンダードだと言い切れる。限界的練習は今日知られているなかで最も効果的な手法であり、どのような分野であっても練習方法を考える際にはこの原則を用いるのが最善の道である。

・一般的に、何かが「許容できる」パフォーマンスレベルに達し、自然にできるようになってしまうと、そこからさらに何年「練習」を続けても向上につながらないことが研究によって示されている。

・一、目的のある練習には、はっきりと定義された具体的目標がある(一番大切なのは、長期的な目標を達成するためにたくさんの小さなステップを積み重ねていくこと)
・二、目的のある練習は集中して行う
・三、目的のある練習にはフィードバックが不可欠
・四、目的のある練習には、居心地の良い領域(コンフォートゾーン)から飛び出すことが必要
⇒自らのコンフォート・ゾーンから飛び出すというのは、それまでできなかったことに挑戦するという意味。まったく歯が立たない、いつかできるようになるとも思えないこともあるだろう。そうした壁を乗り越える方法を見つけることが、実は目的のある練習の重要なポイントの一つ。一般的に、壁を乗り越える方法は「もっと頑張る」ことではなく、「別の方法を試す」ことだ。テクニック、つまりやり方の問題。
どんな分野においても絶対越えられない能力の限界に到達したという明確なエビデンスが示されるケースは驚くほど稀である。むしろ挑戦者が単に諦め、上達しようと努力するのをやめてしまうケースが多い

・目的のある練習の特徴を簡潔にまとめてみよう。まず自分のコンフォート・ゾーンから出ること。それに集中力、明確な目標、それを達成するための計画、上達の具合をモニタリングする方法も必要だ。それからやる気を維持する方法も考えておこう。
・目的のある練習あるいは限界的練習の最大の特徴は、できないこと、すなわちコンフォート・ゾーンの外側で努力することであり、しかも自分が具体的にどうやっているか、どこが弱点なのか、どうすれば上達できるかに意識を集中しながら何度も何度も練習を繰り返すこと

・常に自分に負荷をかけつづけていないと、身体は以前とは水準こそ違うものの、新たなホメオスタシスに落ち着き、改善は止まってしまう。 コンフォート・ゾーンのわずか上にいつづけることが重要なのはこのためだ。身体機能の改善を続けたければ負荷をかけつづけなければならないが、コンフォート・ゾーンをあまり越えすぎると身体を痛めるなど逆効果になる。
・近年の研究では、すでに習得した能力の練習を続けるより新たな能力を獲得するほうが、脳内の構造変化を引き起こすのにはるかに効果的であることが明らかになった。一方、あまりにも長時間負荷をかけつづけると燃え尽きてしまい、学習効果は低くなる。身体と同じように、脳でもコンフォート・ゾーンの「はるか上」ではなく「少し外側」というスイートスポットで最も急速な変化が起きる

・エキスパートと凡人を隔てる最大の要素は、エキスパートは長年にわたる練習によって脳の神経回路が変わり、きわめて精緻な心的イメージが形成されていることで、ずば抜けた記憶、パターン認識、問題解決などそれぞれの専門分野で圧倒的技能を発揮するのに必要な高度な能力が実現する
・どんな分野においても、技能と心的イメージの間には好循環が生まれる。技能が高まるほど心的イメージの質も高まり、心的イメージが優れていると技能を高めるのに効果的な練習ができる
・スキルを磨くことが心的イメージを磨き、優れた心的イメージがスキルの向上をさらに後押しする。

・重要な発見の一つが、能力向上に重要と答えた活動のほとんどについて、非常に負担が大きく、あまり楽しくないと感じていたことで、例外は音楽鑑賞と睡眠だけだった。

・練習に膨大な時間を費やさなければ、並外れた能力は手に入らない
⇒バイオリニストのケースと同じように、個々のダンサーの最終的な能力レベルを決定する最も重要な要因は、練習に費やした時間の合計だった。これまでにさまざまな分野で実施されてきた多くの研究の結果を見れば、練習に膨大な時間を費やさずに並外れた能力を身につけられる者は一人もいない、と言い切って間違いないだろう。私の知るかぎり、まっとうな科学者でこの結論に異を唱える者は一人もいない。

・限界的練習は学習者のコンフォート・ゾーンの外側で、常に現在の能力をわずかに上回る課題に挑戦しつづけることを求める。このため限界に近い努力が求められ、一般的に楽しくはない。

・成功するために一番重要なことの一つは、優れた教師を見つけ、その指導を受けること

・ありとあらゆる練習から最大の効果を引き出すカギはここにある。自分がしていることにとにかく集中するのだ。
・没頭すること、意識的に技能を習得して磨き上げる姿勢を身につけるのは、練習の効果を高める最も強力な方法の一つ
・トレーニングの大部分が単純に何かを繰り返す作業のように思えるスポーツでも、一つひとつの動きを正しくやることに意識を集中すると上達が加速する。

・最も優秀な成績を収めた生徒たちの顕著な特徴は、退屈さやほかの楽しい活動への誘惑に抗い、勉強に打ち込みつづける能力が格別優れていたことだ。

・どんな場面にも役立つ汎用的な「意志の力」が存在するという科学的証拠はまず見当たらない。たとえば全国レベルのスペリングビー・コンテストに出場するために膨大な時間勉強するだけの「意志の力」を持つ生徒たちが、ピアノやチェスや野球を練習しろと言われたら同じだけの「意志の力」を発揮できるという証拠は何もない。一般的に誰にでも楽に努力できる分野とそうではない分野があるのだ。

・つまり意欲を維持するには、継続する理由を強くするかやめる理由を弱くすればいい。意欲の維持に成功したケースには、たいてい両方の要素が含まれている。
・限界的練習の意欲を高めるもう一つの要素が、自分は成功すると信じる気持ちだ。どうしても気分がのらないときでも練習するには、自分は上達できると信じること、(特にエキスパートを目指す人は)その分野でトップクラスになれると信じることが必要だ。この信じる気持ちはとても強力で、ときには現実さえ変えてしまう。
・外発的意欲の中でも特に強力なのが、社会的意欲。もっともわかりやすく、直接的なのは、他者からの承認や尊敬だ

・分野による細かな違いはあるが、大人になってから練習を始めた人の能力向上についても、絶対的な制約は比較的少ない。むしろ身体的あるいは心的制約以上に、大人は毎日四~五時間も限界的練習をする時間を確保できないといった現実的制約のほうが問題であるケースが多い。
・大人の脳は子供や若者の脳と比べていくつかの面では適応性が低いかもしれないが、それでも学習し、変化することは十分可能だ。第二に大人の脳は若い脳とは違う適応性を持つため、大人が何かを学習するメカニズムも、若者のそれとは違う可能性が高い。大人でも懸命に努力すれば、脳が学ぶ方法を見つけてくれる

・傑出したプレーヤーは長年にわたるひたむきな練習を通じて、長く苦しい努力の過程で一歩一歩並外れた能力を身につけていく。てっとり早く上達する方法はない。

・われわれが何かを学習あるいは上達できないのは、生まれ持った才能の上限に達したためではない。何らかの理由で練習をやめてしまう、あるいはそもそも練習しないためだ。

・子供のチェス能力を説明する最大の要因は練習量であり、練習時間が多いほどチェス能力を評価するさまざまな指標のスコアは良くなった。すべてのエビデンスを検討した結果、研究チームはこの年齢の子供の場合、生まれつきの知能(IQ)も影響はするものの、成功を左右する最大の要因は練習であると結論づけた。
・特定の資質(チェスの研究の場合はIQ)を生まれつき持ち合わせている人は、能力を学びはじめた当初は有利かもしれないが、時間が経つにつれてその影響は小さくなり、最終的には練習の量と質がその人がどれほどの能力を獲得するかを決定するうえではるかに大きな意味を持つようになる。 さまざまな分野の研究で、同じパターンが存在するエビデンスが確認されてきた
・自ら選んだ分野で十分な練習を積み、一定の能力レベルに達した人の間では、誰がトップとなるかを決定するうえで何らかの遺伝的能力が影響することを示すエビデンスは一切ない。

・何かをしようと努力し、失敗し、やり方を見直し、再び挑戦するという作業を繰り返すなかでイメージはできていく。最終的には伸ばそうとしている技能に見合った有効な心的イメージが獲得できるだけでなく、その技能と関連性のある膨大な情報も身につくのだ。