「復習4回」で脳をダマすことができる

理想の復習スケジュールは

ヒトの記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があります。短期記憶というのは、長期記憶に情報を保存したり、逆に長期記憶から情報を引き出したりするための一時的な保管場所のようなものです。

短期記憶は時間の経過や新たな情報が入ってくることですぐに忘れられてしまいます。対して、脳が本格的に情報を記憶するときに使うのが長期記憶です。いわば脳のハードディスクです。

長期記憶の容量も限られていますから、脳は仕分けを行い、「必要」と判断された情報だけが、大脳皮質に送られて長期保管されるのです。

この仕分け作業をつかさどっているのが脳の「海馬」という場所です。

海馬はどのような基準で、情報を選別するのでしょうか。それは「生命の存続に役立つかどうか」です。海馬は「生きていくために不可欠」と判断した情報だけを取捨選択して、長期記憶に送り込みます。

では学校の勉強で学ぶことは「生きていくために不可欠な情報」でしょうか。いずれ将来的には生きることに役立つかもしれませんが、当面生きるうえでは「不可欠」とはいえません。つまり、脳科学的に見れば、「いくら勉強してもなかなか身に付かない」「覚えられない」というのは、きわめて自然なことなのです。

ではどうすれば海馬に「必要な情報」と判断させられるのか。方法はただ1つ、海馬をダマすことです。

とくに手に書いたり、声に出したりしながら何度も復習することが効果的です。

せっかく覚えた漢字や英単語を忘れてしまったとしても、その単語が脳から完全に消えてしまうわけではありません。思い出せなくなっているだけで、実は無意識の世界には保存されています。

こんな実験があります。まったく意味のない単語を10個覚えてもらい経過をテストします。すると、4時間後には平均で5個しか覚えていません。ところが一度すべて忘れてしまった後、同じ10個を覚えると4時間後にも平均7個ほど覚えているのです。

学習を繰り返すことで、無意識の記憶が暗記を助けて、以前よりしっかりと覚えられるようになる。それが勉強における「復習」の効果です。

では、どのようなタイミングで何度、復習するのが効果的なのでしょうか。

 

無意識な記憶の保存期間は1カ月程度といわれています。最低でも1カ月以内に復習するようにしましょう。脳科学的に最も効率的なのは、以下のような復習スケジュールだと私は考えています。

学習した翌日に1回目(の復習)。その1週間後に2回目。さらに2週間後に3回目。さらに1カ月後に4回目。

全部で4回です。

科目や単元にもよりますが復習スケジュールをこれ以上過密にして、時間と労力をかけても、成果は変わらないことが多いようです。ただし、人によっては3回の復習で覚えられるかもしれないし、10回の復習で覚える人もいます。

自分はどれくらいのペースで復習すると覚えやすいのか、勉強しながら自分の脳の傾向を確かめてみるのがいいでしょう。

読むだけでなく、問題を解くこと

また、復習のポイントとして覚えておきたいのが、情報を暗記する「入力」だけではなく、覚えた内容をテストなどで確かめる「出力」も大事だということです。

情報の入力と出力では、脳は圧倒的に「出力」を重要視します。「この情報はこんなに使われるのか。ならば覚えなければ」と海馬は判断するのです。

勉強の仕方でいえば、教科書や参考書を何度も見直すよりも、問題集を繰り返し解くような復習法のほうがより効果的といえます。

私たちは物事を覚えるときに何かに関連付けて記憶します。

たとえば今、私の目の前にカフェオレがあるとしましょう。この言葉を覚えるときに、「カフェオレ」という単語だけ覚えても何の意味も持ちません。文字づらとしての「カフェオレ」、目で見る「カフェオレ」の色や形状、耳に届く「カフェオレ」という音、飲むときに鼻孔で受容する香りや舌で感じる味わい。こうした複数の感覚が統合されて、「カフェオレ」という1つの記憶が成立します。

 

記憶は単独の知識では成立せずに、連合によって有意義なものになります。そして連合性の高い情報であるほど、記憶しやすいのです。

前知識を持っていると物事を覚えやすいのも記憶の連合性が働くからです。

たとえば車の車種を覚える場合、車に興味のある人とまったくない人では「入りやすさ」が全然違う。車に興味がなくて、車の知識もない人は丸暗記するしかありません。しかし、車が好きで前知識がある人は「去年のプリウスはこういう形だったから、ここをマイナーチェンジしたんだ」とすっと頭に入ってくる。

記憶力はその人が持っている過去の情報量に左右されるのです。事前情報が多いほど関連付けて覚えられるので、記憶が楽になるわけです。

クラスの頭のいい子が、何でも一度で覚えてしまったり、授業を聞いただけでマスターしてしまったりすると聞くと、「記憶の天才に違いない。うちの子にはとてもまねできない」と思いがちですが、実は事前知識の蓄積の差ということもあるのです。
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「勉強量と学習効果」の関係

大河ドラマや時代劇を見ている子が歴史の暗記が得意だったり、本好きな子が漢字に強かったりする。文部科学省の全国学力テストでも、美術館に行ったり新聞を購読したりしている家庭の子のほうが学力が高い傾向があります。文化的な経験をさせることが学校での学習の助けとなっていることを考えれば当然の結果といえます。文化的な刺激に触れることで、その分野に興味を持てば、前知識を拾いやすくなって、それが記憶につながっていく。そんないい循環を生むのです。

記憶というのは最初が一番大変です。まったく何もない状態から覚えなければいけないからです。

しかし、その苦労はずっと続くわけではなくて、ある一定のレベルに達すると、いろいろな知識と連合して覚えやすくなる。「勉強量と学習効果」の関係(図を参照)と同じで、記憶が楽になるところまで頑張れるかどうか、なのです。

池谷裕二
1970年、静岡県生まれ。薬学博士。東京大学大学院薬学系研究科准教授。『自分では気づかない、ココロの盲点』『脳には妙なクセがある』など著書多数。